預かり中に事故が起きたら?ペットホテル経営者が知っておくべきトラブル回避のための予防策

ペットホテルを運営するうえで起こりうるトラブル
預かり中の事故
典型的な事例としては,以下のような場合があります。
① ホテルでお預かり中に,店舗内から逃げ出してしまう・散歩中に逃げ出してしまう
② お預かり中の他の犬に怪我をさせる・させられてしまった
③ お預かり中に亡くなってしまう・体調を崩してしまう
④ トリミング中にハサミで犬の体を傷つけてしまう・誤って施術台から落下して骨折させてしまう
預かり費用の請求
上記トラブルを原因として,ホテル利用料の支払いについて争いが生じたり,或いは,飼い主様とご連絡がつかず,高額な延長料金が発生し,支払いについてトラブルになるといったケースも稀にございます。
預かり中の事故に関する裁判例
保管中の怪我等の事故
ペットホテルに預けた犬(ミニチュアダックスフンド)がお迎えに行ったところ足を骨折していたケース(青梅簡裁H15.3.18)
【事案】
・犬をペットホテルに預けたとき,犬には何も異常がなかった
・翌日お迎えに行ったところ,右前足を地面に着けることができなかった
・病院で診察を受けたところ「右前肢上腕骨遠位部骨折」と診断された。獣医師によれば,この怪我は最近のものであるとのことであった
・ペットホテル側は,「前からそうだった。うちとは関係ない」と話し合いに応じなかった。
【判決概要】
・本件犬の骨折した時期は,被告が本件の犬を預かっていた間であるとの事実が推認できる。
・また,被告は,犬を預かることを営業としており,その業務に関しては,一般人よりも高度の注意義務を負っていると認められ,被告は,その業務に関して注意義務を怠ったとの事実が推認できる。
・よって,被告は,本件の犬の骨折につき責任を有するものと認められる。
と述べ,請求額20万円に対し,10万1600円の支払いを認めました。
【ペット弁護士中間のコメント】
預かり時に怪我をしていたかどうか,が争点となりました。ペットを預かるホテル側としては,お預かり時・お迎え時のペットの健康状態を飼い主さんと対面の上で確認し,可能であればお預かり同意書等の書面にチェック欄を設けるなどして,客観化しておくことで,こういったトラブルを避けることができるでしょう。
散歩中の事故
ホテルに預けた犬が散歩中行方不明になってしまったケース(福岡地裁H21.1.22)
【事案】
Aさんが,正月に旅行の為,愛犬のチワワを,ペットホテルに2泊3日で預けました。このチワワは怖がりであったため,Aさんはホテルに預ける際,「他の犬と一緒にしないでほしい」と注意書きのメモを従業員に渡しました。
しかし,従業員は注意書きの存在を失念し,お預かり2日目に,他の犬と一緒にこのチワワを散歩に連れていきってしまい,怖がって騒いだチワワの首輪が抜け,行方不明になってしまいました。
Aさんが翌日に心配になって電話をしたところ,従業員はチワワが行方不明になっていることを正直に伝えませんでした。Aさんは帰宅後,チワワが行方不明になってしまったことを知らされました。Aさんはペットホテルに慰謝料100万円を含む150万の損害賠償を求める訴訟を提起しました。
【判決概要】
・ほかの犬と一緒にしないよう事前の注意があったにもかかわらずほかの犬と一緒に散歩させたペットホテルには過失が認められる
・Aは長時間自宅にいる生活をしていたこともあり,チワワに寄せていた愛情は特に強い者であった
・従業員の説明が真摯なものではなかった
と言ったことを考慮して,60万円の賠償を認めました。
【ペット弁護士中間のコメント】
飼い主様からの事前指示があったにもかかわらず,それに沿った対応をしなかった点で,ペットホテルの責任は免れないものであったと考えます。
もっとも,この判決からペットホテルを営む経営者様が得られる教訓として,①飼い主様からの注意事項など情報共有を徹底すること,②事故が起きたときは,嘘をつくなどその場しのぎの場当たり的な対応はせず,飼い主様の為に真摯に行動し,ペットホテルに対する信用に対するダメージを最小限に食い止めるよう動く,ということでしょう。
預かり中の事故が起きたら?理想的な対処方法
事故が起きたら早急に飼い主に連絡
お預かりしているペットに何か異変が生じたり,トラブルが発生した場合は,速やかに飼い主様の緊急連絡先に連絡をしましょう。連絡が遅れて事態が悪化した場合,迅速な対応を怠ったとして,店側に責任を問われることがあります。
最低限の被害におさえられるよう対処する
上記の通り速やかに飼い主様に連絡をするとともに,提携している獣医師に診察してもらう・適切な応急処置を取るなど,被害を最小限にできるように対処しましょう。
誠意ある対応をみせる
万が一,お預かりしているペットに怪我をさせてしまうなどした場合は,速やかに謝罪する,診療費の負担,再発防止策を講じるなど最大限誠意ある対応をするようにしましょう。
未然にトラブルを防ぐために実施すべきこと
預かり同意書の作成
上記裁判例のように,お預かりする前から怪我していたかどうかが問題になってしまったり,注意事項があったのに店舗側で共有されずに事故が起こってしまうことはしばしばあります。
こういったトラブルを回避するには,やはり契約書をちゃんと作り込む必要があります。「お預かり同意書」等適宜のタイトルで,飼い主様と書類を交わしておきましょう(厳密には,飼い主様とペットホテルとの間には,「有償寄託契約」という契約が成立しています。ので,その契約書を作るということになります)
同意書内容の説明
・ペットの犬種,年齢,性別,去勢・避妊の有無
・ワクチン予防接種,狂犬病注射済みであること
・持病,先天性疾患の有無
・怖がり,吠えるなどお預かりに当たっての注意事項
・その他健康状態に問題がないか
・事故・体調に異変があった場合の緊急連絡先
・連絡が取れない場合,飼主の同意を得ず,提携の動物病院で診療を受ける場合があること
といった内容を同意書に記載しましょう。
契約内容の事故が起きた場合の対処の明記
さらに,事故が起きてしまった場合の賠償範囲,怪我した場合の治療費負担は,ホテル提携の動物病院での診察を受けた場合に限る,であったり,診断書・明細書の提出を条件とするなど一定の留保を付すとよいでしょう。
ペットホテルの運営に関する法律相談は弁護士法人なかま法律事務所へ
当事務所ではペットホテルの運営に関するご相談に対応しております。
他の動物病院・獣医師の先生方からご相談をいただいている経験を生かして、貴院での対応策について適切なアドバイスをさせていただきます。
また訴訟等の問題が起きないための日常的な予防策として、獣医師・動物病院様向けの顧問プランも護用意しておりますので、法的トラブルでお悩みの方はぜひ一度ご相談ください。
