ペットショップ経営者が知っておきたい法的トラブルの対処法
ペットショップが守らなければならない法規制
ペットの生体販売を行う事業者(以下,「ペットショップ」と言います)は,動物の適正な取り扱いを確保するため,動物愛護法の様々な規制を守らなければなりません。
登録
1 第一種動物取扱業の登録が必要
まず,ペットショップは,動物の販売を営利目的で業として行う者として,動物愛護法10条1項,施行令1条)の「第1種動物取扱業者」に該当します。よって,ペットショップを開業したい方は,同法に基づき,「第一種動物取扱業者」として,当該店舗の所在地を管轄する都道府県知事の登録を受けなければなりません(同法10条)。
2 申請
登録を受けるには,以下事項を記載した申請書を,管轄の○○に提出する必要があります。書式は環境省HPからダウンロードが可能です。
⑴ 代表者の氏名
⑵ 事業所の名称・所在地
⑶ 動物取扱責任者(事業所ごと)の氏名
⑷ 営もうとする動物取扱業の種別,その種別に応じた業務内容及び実施の方法
⑸ 主として取扱う動物の種類及び数
⑹ 飼養施設を設置する場合,次に掲げる事項
ア 飼養施設の所在地
イ 飼養施設の構造・規模
ウ 飼養施設の管理方法
⑺ その他環境省令で定める事項
また,犬猫等を販売しようとする場合は,上記申請とともに,以下の事項を記載する必要があります。
⑻ 販売の用に供する犬及び猫の繁殖を行うかどうか
⑼ 犬猫等健康安全計画(別紙で記載します)
幼齢の犬猫等の健康及び安全を保持するための体制の整備,販売の用に供することが困難となった犬猫等の取り扱い
事前説明等の義務
第一種動物取扱業者のうち動物販売業者には,販売時の説明義務が定められています(法8条)さらに,同じく動物販売業者には,現物確認と対面販売も義務付けられています(法21条の4)。
具体的には,動物愛護管理法施行規則8じょうの2第2項に定められています。
⑴ 動物の品種等の名称
⑵ 性成熟時の標準体重・体長その他体の大きさに関する情報
⑶ 平均寿命等の飼養期間に関する情報
⑷ 飼養又は保管に適した飼養施設の構造及び規模
⑸ 適切な給餌及び給水の方法
⑹ 適切な運動及び急用の方法
⑺ 主な人と動物の共通感染症その他の当該動物がかかるおそれの高い疾病の種類及びその予防方法
⑻ 不妊又は去勢の措置の方法及びその費用(哺乳類に属する動物に限る。)
⑼ 前号に掲げるもののほかみだりな繁殖を制限するための措置(不妊又は去勢の措置を不可逆的な方法により実施している場合を除く。)
⑽ 遺棄の禁止その他当該動物に係る関係法令の規定による規制の内容
⑾ 性別の判定結果
⑿ 生年月日(輸入等をされた動物であって、生年月日が明らかでない場合にあっては、推定される生年月日及び輸入年月日等)
⒀ 不妊又は去勢の措置の実施状況(哺乳類に属する動物に限る。)
⒁ 繁殖を行った者の氏名又は名称及び登録番号又は所在地(輸入された動物であって、繁殖を行った者が明らかでない場合にあっては当該動物を輸出した者の氏名又は名称及び所在地、譲渡された動物であって、繁殖を行った者が明らかでない場合にあっては当該動物を譲渡した者の氏名又は名称及び所在地)
⒂ 所有者の氏名(自己の所有しない動物を販売しようとする場合に限る。)
⒃ 当該動物の病歴、ワクチンの接種状況等
⒄ 当該動物の親及び同腹子に係る遺伝性疾患の発生状況(哺乳類に属する動物に限り、かつ、関係者からの聴取り等によっても知ることが困難であるものを除く。)
⒅ 前各号に掲げるもののほか、当該動物の適正な飼養又は保管に必要な事項
実際に購入者様に説明する際は,環境省が発行する「ペット動物販売業者用説明マニュアル」を参考にし,自店舗用のマニュアルを作っておくとよいでしょう。
また,説明を行うのは,同法施行規則3条1項5号で定めるいずれかの者(動物取扱責任者)でなければなりません。(同項6号)
さらに,説明は対面の上,書面を提示しつつ口頭で行い,最後に購入者から署名等の確認を受けなければなりません(施行規則8条6号)。
飼養施設や飼養方法等について守るべき基準
第1種動物取扱業者は,動物の健康及び安全を保持するとともに、生活環境の保全上の支障が生ずることを防止するため、その取り扱う動物の管理の方法等に関し環境省令で定める基準を遵守しなければならない,とされています(法21条1項)。
具体的な基準は,施行規則8条に規定されています。詳細は下記資料をご参照ください。
環境省 第一種動物取扱業者及び第二種動物取扱業者が取り扱う動物の管理の方法等の基準を定める省令等の公布について
マイクロチップの義務化
犬猫等販売業者は、犬又は猫を取得したときは、犬又は猫を取得した日(生後九十日以内の犬又は猫を取得した場合にあつては、生後九十日を経過した日)から三十日を経過する日(その日までに当該犬又は猫の譲渡しをする場合にあつては、その譲渡しの日)までに、当該犬又は猫にマイクロチップを装着しなければなりません(法39条の2第1項,39条の5第1項)。
また,マイクロチップの装着及び登録済みの犬猫を取得した犬猫販売業者は登録変更をしなければなりません(動物愛護法39条の6第1項)。
帳簿や台帳の作成と所有状況の報告
1 帳簿の作成・保存
動物販売業者は,帳簿を備え,その所有・占有する動物について,所有・占有した日,販売または引き渡しをした日,死亡した日等を記載し,保存しなければなりません(法21条の4第1項)。
保存期間は5年間です。保存はPC内でデータ保存でも問題ありません。
帳簿の作成・保存義務に違反した場合や虚偽の記載をした場合,20万円以下の過料に処せられます(法49条2号)。
2 所有状況の報告
動物販売業者は,以下の事項を都道府県知事に届け出なければなりません(法21条の5第2項)。
⑴ 当該期間が開始した日に所有し、又は占有していた動物の種類ごとの数
⑵ 当該期間中に新たに所有し、又は占有した動物の種類ごとの数
⑶ 当該期間中に販売若しくは引渡し又は死亡の事実が生じた動物の当該事実の区分ごと及び種類ごとの数
⑷ 当該期間が終了した日に所有し、又は占有していた動物の種類ごとの数
⑸ その他環境省令で定める事項
ペットショップで発生しやすいトラブルの対処法と予防策
顧客からのクレーム
購入時の説明と異なり気性が荒くて困っている,強く引っ張られて怪我をした・・・など,店舗側からみれば不当な要求とも言える所謂クレーム対応に困っているというご相談があります。
クレーム予防の為には,動物販売業者としての説明義務を果たすこと,説明義務を果たしたことを記録できるような契約書・同意書をしっかり作っておくことが肝要です。
病気・障害を抱えていたとして返金を求められている
先天性の疾患や病歴の有無は,契約時に説明しなければならない事柄の一つです。しかしながら,説明が不足していたり,説明していたのに購入者が忘れてしまっていたり,或いは,実は引き渡し後に発症した病気であるにもかかわらず,ペットショップに責任を問うてしまっているケースなどが散見されます。
こういったトラブルを回避するには,上で述べたクレーム対応同様,購入時に説明を十分に行うこと,説明した内容を書面に残し,購入者にサインをもらうなど,店側の落ち度を追求されないような仕組みを作っておくことが重要です。
ローン契約をしている顧客のキャンセル対応
ペットショップによっては「ペットローン」といって,ペットショップが提携している信販会社でローンを組んでペットを購入できることがあります。可愛くて衝動的にその場でローンで購入してしまったが,やっぱり飼うのが不安になった,家族がペットアレルギーだった等,飼い主側の都合では基本的に契約をキャンセルすることはできません。ペットを飼うことは、命を預かることです。自分が本当にペットの一生を面倒見ることができるのか,慎重に考えてから迎え入れるようにしましょう。
ペット事業者でお悩みを抱えている方は弁護士法人なかま法律事務所へ
当事務所はペット事業者様が抱えるトラブルの解決のサポートを多く手掛けております。
もし、お困りごとがございましたら、ペット法務に特化している当事務所へご相談ください。