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【ペット弁護士®が解説】動物病院が未払い診療費を回収する方法

動物病院の診療費未払い問題について

背景

アニコム損害保険会社の調査によると,犬一匹当たり約10万円,猫一匹当たり約5万円ほど,治療費や予防接種・ワクチン接種費用がかかっているようです。

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000068.000028421.html

加えて,ペットは人間と違って基本的に自由診療になりますから,手術や入院を伴う治療となると,買主の負担額は20万,30万を超えてくることは珍しくありません。

ペットが高齢になればなるほど治療費はかかってきますし,ペット保険に加入していない飼い主様の中には診療報酬が想定外に高額になってしまい,支払いに窮する方も散見され,診療報酬未払いの事態が生じることがあります。

 このような高額医療費が生じる場合以外にも,診療報酬未払いが生じることがあります。例えば,最初から踏み倒すつもりで治療を受けるということもあります。といいますのも,獣医師には獣医師法上の「応召義務」があることから,診療報酬を払ってくれなさそうな患者様から治療を求められても基本的にお断りすることができません。このことを知ってか知らずか,少額の治療費であっても踏み倒そうとする患者様が残念ながらいらっしゃるようです。  

しかし,獣医師は多忙ですから,日々の業務に加えて,不慣れな債権回収業務に時間をかけていられません。結果未払い診療報酬を放置してしまっていることが多くあるのです。

診療報酬請求権の時効

時効の3年→5年への改正

民法改正後に発生した診療報酬債権の消滅時効は請求できる時から5年となりました。(民法166条1項1号)。厳密には令和2年4月1日以降に発生した診療報酬債権は5年,それ以前に発生した診療報酬債権は3年の消滅時効にかかります。

時効は止められる?

しばしば勘違いされがちですが,電話で支払いを求めたり,内容証明郵便を送っただけでは,時効を完全に止めることはできません。これらは「催告」と言って,一度だけ且つ6カ月だけ時効期間の経過を止めることができます(民法150条1項2項)。6カ月たつと,再び時効期間の進行が進みますので,ご注意ください。

また,一部だけでも支払いがあれば債務の承認と言って,時効がリセットされます(民法152条1項)。さらに,調停継続中,訴訟を提起して訴訟が継続している間や支払督促の手続中は,時効がストップします(民法147条1項1号乃至3号)。

未払いの診療費を回収する方法

①相手との協議

下記②から⑤の法的手段は少なからず手続費用が掛かりますから,まずは法的手続きより前に協議によって回収を試みることが一般的です。具体的には,未払診療報酬を請求する内容証明郵便を送付しつつ,電話・メールなど可能な接触方法を利用して接触・交渉を試みます。協議が可能であれば,最終的に合意書を作成して支払いを確認して解決,という流れになります。

②民事調停

他方,①のような協議が難航したり,そもそも連絡がつかないようであれば法的手続を検討することとなります。調停は,簡単に言えば,裁判所で行うお話合いです。調停委員という非常勤の裁判所職員が中立の立場で双方の言い分を聞き,落としどころを探っていきます。柔軟な解決が模索できる一方,相手方には出頭する義務もなければ合意する義務もありません。相手に話し合いの姿勢が見えない場合は,以下③或いは④の手続きを選択することとなります。

③支払督促

滞納者の住所がわかれば,当該住所地を管轄する簡易裁判所に対して,支払い督促の申立てが可能です。基本的に書面の手続きのため,迅速であること,印紙代が訴訟提起の半額程度で済むことがメリットと言えます。他方,異議を申し立てられると通常訴訟(以下④)に移行してしまいます。

④民事訴訟

交渉ができない,調停でも凡そ話がまとまりそうにない,支払督促を申し立てたが異議を申し立てられた,といった場合は,民事訴訟の提起を検討しましょう。もっとも,訴訟は半年~1年ほどはかかりますし,本人訴訟では毎回出頭したり書面を書いたり,かなり負担がかかりますので,現実的には弁護士に依頼することが好ましいと言えます。弁護士費用も発生しますので,民事訴訟を提起する場合は,費用対効果も勘案して本当に訴訟提起すべきか,一度弁護士に相談してみることをお勧めします。

なお,請求額が60万以下の場合は,「少額訴訟」という手続きを選択することができます。少額訴訟は原則1回の審理で判決が得られますので,いわゆる通常訴訟より簡易・迅速と言えます。動物病院の診療報酬債権は少なからずこの少額訴訟によって回収できる範囲の金額にとどまっていることもあろうかと思いますので,「使える」制度と言えるでしょう。

⑤強制執行(仮差押え)

滞納者の預金口座や勤務先がわかる場合は,預金債権,給与債権の差し押さえを行うことがあり得ます。ただ,患者様のこれらの情報を把握していることも多くないと思いますし,仮差押えの要件を満たすことも稀でしょう。基本的にはとり得ない方法と考えておいた方が良いでしょう。

回収見込みが高くなくても手続きはしておくべき?

上記で説明させて頂いた通り,消滅時効期間の経過を止めるには,各種手続をして請求しておく必要があります。回収可能性が期待しえない報酬債権であっても,とりあえず何かしらの手続きをして,時効期間を中断するなりしておくことが賢明でしょう。

まとめ

以上説明したことを簡単にまとめると,

  • ●金額の多寡にかかわらず未払診療報酬問題は起こり得る
  • ●診療報酬債権は3年或いは5年で消滅時効にかかり請求ができなくなる
  • ●時効を止めるためには,時効期間が満了する前に請求・法的手続きを取る必要がある
  • ●回収は手間がかかるので,基本的には専門家である弁護士に対応してもらうとよい

診療費の回収にお困りの動物病院様はぜひ一度ご相談ください

当事務所では、動物病院・獣医師様に向けた法的サポートを提供しております。

「未払いの診療費があるが、請求が可能なのか相談したい」といった診療費回収のみならず、

経営をしていくなかで発生する法的課題に関するご相談にも対応可能です。

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