動物病院へのペットに関する訴訟が増加!動物病院で知っておくべき予防策
ペット業界の動向
現在のペット飼育頭数等の動向
2021年の全国犬猫推計飼育頭数は,犬710万6000匹,猫894万6000匹となっています。2013年以降,犬は微減,猫は微増傾向にあります。
また,コロナによる巣ごもり需要の影響か,1年以内の飼育頭数は,犬猫共に,コロナ前の2019年に比べ2020年,2021年ともに増加しています。
新型コロナ後に飼育し始めた人のアンケートによれば,「心穏やかに過ごせる日々が増えた」「毎日の生活が楽しくなった」といった回答があり,コロナ前と比較して,「ペットと過ごす時間が増えた人」,「ペットを癒し」と感じる人が増えているようです。 (一般社団法人ペットフード協会 2021年(令和3年)全国犬猫飼育実態調査 結果より)
ペットを飼う人の増加ペットに関するトラブル件数も増加
しかし,ペットを飼う人が増加すれば,おのずとペット飼育に関するトラブルもやはり増加します。
本記事では,ペットに関して残念ながら訴訟に発展してしまうトラブルについて,説明させていただきます。
よくある訴訟に発展しやすいトラブル
ペットの死傷事故
ペットが事故に遭ってしまうケース
散歩中の犬が自動車に轢かれて死亡してしまう事故で裁判になった事例がありますが,このようなケースで,飼主がリードを短くしてちゃんと持っていなかった等の過失を認め,自動車運転手側の賠償額を減額する裁判例があります。(東京地裁H24.9.6 LLI/DB)。
ペットがケガをさせてしまうケース
逆に,飼い犬が人を怪我させてしまう事故もあります。例えば,飼い犬が散歩中,自転車で走行中の人に突然吠えかかったため,驚いて転倒し怪我をしてしまったという事例で,裁判所は,「飼い犬が自転車で走行中の人に向かって言った場合,走行中の人が驚いて転倒することは容易に想像ができる事態である」として,飼主に注意義務違反を認めました(大阪地裁平18.9.15 交通事故民事裁判例集39巻5号1291頁)
医療過誤
獣医療過誤事件は,近年増加傾向にあります。
背景には,飼主の権利意識の高まり,獣医療費用の高額化などが考えられます。
手術ミス
飼育しているチワワ4匹に,獣医師が歯石除去手術を行ったところ,うち2匹が術後まもなく呼吸停止し死亡してしまった事例で,裁判所は,「全身麻酔薬「ラピノペット」,「ソムノペンチル」について,獣医師はこれらを投与する際は,気道確保,人口換気,酸素吸入の準備をし,異常があれば適切な措置を迅速に実施する注意義務を負う」とし,本件獣医師がこれらの準備を怠った点を指摘し,獣医師の損害賠償責任を認めました(東京地判H24.12.20 ウエストロー)。
手術前の獣医師の説明義務違反
15歳の老犬に,子宮蓄膿症治療のための卵巣子宮全摘出,口腔内腫瘍治療のための下顎骨切除,乳腺腫瘍切除の3手術を行い,術後死亡してしまった事例で,裁判所は,「獣医師は,原則として飼い主の意思に反する医療行為を行ってはならなず,飼主が医療行為の内容や危険性当を十分理解したうえで意思決定できるような必要な範囲の事柄を事前に説明する必要がある」と述べ,獣医師の説明義務違反に基づく損害賠償を命じました(東京高判平成19年9月27日 判時1990・21)
検査義務違反,転院義務違反
12歳のミニチュアダックスフンドを診察,入院後検査義務を怠り,2週間たってから転院させ,転院後に一時瀕死になった事例で,裁判所は「(転院前の担当獣医師について)自ら医療水準に応じた診療ができないときは医療水準に応じた診療をすることができる医療機関に転院することについて説明すべき義務を負い,それが診療契約に基づく獣医師の債務の内容となる」と判示し,獣医師の説明義務違反,検査義務違反をみとめ,損害賠償を命じました(東京高判H20,9.26 判タ1322.208)。
他のペットや人とのトラブル
下記のような事案で裁判例が複数みられます。気性が荒い犬は飼い主がちゃんとコントロールする,ノーリードで散歩は厳に控えるなど,他人に迷惑を掛けないように飼い主が注意しなければなりません。
- 飼い犬が他の犬に咬みつく(咬まれる)事故
- 飼い犬が通行人に咬みついて怪我をさせる事故
- 飼い犬が突然吠えて驚いた通行人が転倒し怪我してしまう事故
- ノーリードで散歩させて飼い犬が人を咬んでしまう事故
ペットホテルを併設/預かっている際のトラブル
例1:預かっている最中に犬猫が怪我をした/亡くなってしまった
ペットホテルに預けたところ,預ける前は何ともなかったのに,帰ってきたら,右前足を骨折していたという事例で,ペットホテルの注意義務違反を認めた裁判例があります(東京地裁H26.5.19 ウェストロー)。
例2:トリミング中に誤って尻尾を切ってしまった
猫をトリミング中にトリマーが過失により尻尾を5センチ切断してしまった事例で,トリマーの注意義務違反を認めた裁判例があります(東京地裁H24.7.26 判例秘書)。
動物病院が訴訟を起こされた場合のリスク
病院名の公表⇒信頼の低下
ペットの大事な命を預かる動物病院において,飼主様から医療過誤訴訟を提起された事実を公表されることは,病院に対する信頼を大きく損なってしまいます。一度失った信頼を回復することは容易ではありません。
信頼低下による集客数の低下
飼い主様からの信頼を失えば,集客に多大なダメージを及ぼすことは想像に難くないでしょう。
病院運営が不可能に
結果,病院の維持が困難になり,最悪閉院に追い込まれるケースもあります。
動物病院が訴訟を起こされないように今できる予防策
一度でも医療過誤訴訟を起こされてしまえば,病院経営に致命傷となります。従って,医療過誤を防ぐ万全の予防策を講じることは,病院経営にマストと言えます。では,具体的にどのような予防策を講じるべきでしょうか。
院内の情報共有の徹底
電子カルテの導入,院内での事例勉強会等により,獣医師,スタッフの情報共有を徹底しましょう。患犬(猫)の既往症や性格,過去の手術歴等,必要な情報を共有することで,獣医療過誤の予防に繋がります。
飼い主への対応方法のマニュアル化
手術を行う際は,インフォームドコンセントを徹底する,リスクを説明し,複数の治療法があるときはそれぞれの内容やメリットデメリットを説明し,飼主の自己決定権を尊重してあげる,飼主様の不安を無くしてあげる対応が重要です。
また,術後に言った言わないの争いにならないよう,説明内容を予め書面化したり,カルテを詳細に書いておくなど獣医師側でも,事後のトラブルを避ける予防策を講じなければなりません。
訴訟等のトラブルの予防策を講じるには、まず弁護士にご相談を
獣医療過誤をしてしまった時は速やかに弁護士に相談しましょう。事後の対応や,病院及び担当獣医師の法的責任の有無について,弁護士がアドバイスさせていただきます。
また,獣医療過誤を予防したい院長様は,貴院においてどのような予防策が適切か獣医療トラブルに精通している弁護士に相談されてみるとよいでしょう。
弁護士法人なかま法律事務所の強み
約20社の顧問先様の対応経験を生かして法的サポートを実現
当事務所では動物病院・獣医師様に特化した顧問プラン等の法的サポートをご用意しております。”顧問弁護士”のなかでも、業種・業界が異なれば頻繁に対応している業務内容も異なります。現在約20社のペット事業者様との顧問契約を締結させていただいており、顧問先である他病院様などからご相談をいただいた際の経験を生かして、貴院に最善な対応方法のご提案が可能です。
問題を発生させない対策に関する経営アドバイス
本記事のように獣医療事故を起こさないためには、普段から経営上でリスクを生まないための対策が必要です。問題を発生させないために必要な対応をアドバイスいたします。
当事務所では医療事故への対応はもちろん、顧問契約を通じた継続的なサポートも可能です。
まずはお気軽にご相談ください。